住宅ローン控除をフルに活用すると10年間で数百万円の減税効果になります。一部にはこの制度を活用するために、繰り上げ返済を急ぐ必要もなく、住宅ローン控除優先で良いという考え方もあります。
住宅ローン控除と繰り上げ返済のどちらを優先すべきか比較して紹介します。
住宅ローン控除のおさらい
住宅ローン控除の基本条件は次の4つです。
- 借入から10年間毎年受けることができる
- 所得税と住民税の一部が減税される ※1
- 年末の借入残高の1%が上限
- 一般の住宅で1年間最大40万円
※1:所得税から控除しきれないときは、住民税が控除される。住民税は、所得税の課税総所得金額等の額の7%、または13万6500円のうち小さいほうの額を上限とする。
1年間40万円×10年間で最大400万円の減税制度ということで、非常に家計にも重要な制度です。
人によって控除額は異なる
住宅ローン控除は、納めている所得税と住民税の一部が対象です。
例えば年末の借入残高が3000万円あると、1%の30万円が控除の上限です。しかし、所得税を20万円しか納めていない人はこれだけでは10万円足りませんので、住民税のうち10万円を加えて、30万円の減税ということになります。
つまり、借入額が多くても、所得税と住民税を足した金額が借入残高の1%を下回っていると、住宅ローン控除をフルに使うことはできません。
控除があるから借入を増やすというのは本末転倒で、自分が払っている所得税がいくらなのか知ることも大切です。目安としては、自分がすまい給付金の対象かという点で確認するのが便利です。
すまい給付金は元々、住宅ローン控除の拡充がされたときに、枠だけ増えても所得税の支払いが多くなければ、控除される金額が増えることはないので、そういった人に対して現金で還元することが目的でした。
最大控除額である1年間で40万円の控除を受けるためには、年末時点で借入残高が4000万円以上あり、所得税と住民税の一部を足して40万円以上を納めている必要があるのです。これだけの条件を満たす人は多くはありません。
消費税は8%のときは、扶養家族のいない人で目安として、年収約460万円以下の人がすまい給付金の対象です。
では、住宅ローン控除でいくら減税されるのでしょうか。おおよその目安として、扶養家族なしの場合で年収別の住宅ローン控除の対象額が次のとおりです。
- 年収300万円 22.5万円
- 年収400万円 29.7万円
- 年収500万円 36.7万円
年収400万円の人であれば、年末の借入残高が3000万円あれば上限まで控除されることになりますので、これ以上の残高部分に対しては、繰り上げ返済を行うことで控除される金額が減るのでは?ということを心配する必要はありません。
共働き夫婦は、二人で住宅ローンを組んだ方が住宅ローン控除が活用できると言われるのは、この上限に届かない点を工夫することで控除額を増やすということです。
一人では上限まで届かないが、例えば3000万円を1500万円と1500万円にローンを分割すれば、約15万円が1人当たりの控除の上限になるので、夫婦それぞれ上限まで控除できるという仕組みなのです。
住宅ローン控除のために繰り上げ返済を待つべきか
昨今の低金利もあり、最初の10年間は住宅ローン控除をフルに使い、繰り上げ返済を10年後に行う方が得になるという話を聞いたことがある人も少なくないでしょう。
しかし一方で、最初の10年間は繰り上げ返済による利息削減効果が特に高い時期でもあるため、迷いどころなのです。どちらがお得なのかパターン別に比較してみましょう。
金利は10年間変動しないものとし、1月から返済が始まったとすると、次のような条件では、コツコツ繰り上げ返済をした方がお得でしょうか。それとも10年間は繰り上げ返済は我慢すべきでしょうか。
《条件》
・3000万円借入
・35年返済
・金利0.6%
▼毎年6月に+50万円ずつ、期間短縮型の一部繰り上げ返済を行う
(10年間で500万円を繰り上げ返済)
- ・削減利息 約87.7万円
- ・短縮できた期間 6年2か月
- ・住宅ローン控除額の合計(上限)約228.5万円
- ・削減利息+住宅ローン控除額 約316.2万円
▼10年経過後に500万円をまとめて繰り上げ返済を行う
- ・削減利息 約70.3万円
- ・短縮できた期間 6年
- ・住宅ローン控除額の合計(上限)約256.6万円
- ・削減利息+住宅ローン控除額 約326.9万円
毎年残高が繰り上げ返済によってどんどん減ることで、控除される上限が早く減るのが、コツコツ繰り上げ返済型、控除の上限を減りにくくするまとめて繰り上げ返済型という訳です。
35年間で見たときに削減できた利息と住宅ローン控除の金額を足すと、この場合は住宅ローン控除を優先して、繰り上げ返済を10年後に行うことで10万円ほどお得になります。
少しでも早い繰り上げ返済で、削減できる利息は増えますが、金利が低いとそれ以上に住宅ローン控除を活用するために借入残高を残すようにする方が良いという現象が起きます。
住宅ローン控除は年末時点の残高が重要になるので、初年度の残高は1月から返済が始まるとき、最も減っていることになります。
ちなみに、繰り上げ返済をする金額を増やすことで、その差は開いていきます。
▼毎年6月に+100万円ずつ期間短縮型の一部繰り上げ返済を行う
(10年間で1000万円を繰り上げ返済)
- ・削減利息 約154.5万円
- ・短縮できた期間 12年1か月
- ・住宅ローン控除額の合計(上限)約200.5万円
- ・削減利息+住宅ローン控除額 約355.5万円
▼10年経過後に1000万円をまとめて繰り上げ返済を行う
- ・削減利息 約120.8万円
- ・短縮できた期間 11年9ヶ月
- ・住宅ローン控除額の合計(上限)約256.6万円
- ・削減利息+住宅ローン控除額 約377.4万円
繰り上げ返済できる資金が増えると、20万円以上の差になりました。
金利が1%を下回る低金利であれば、控除がフルに使えるときは、住宅ローン控除>繰り上げ返済で繰り上げ返済は待ってみてもいいでしょう。
では、金利が高くなると変わるのでしょうか。上記と同条件で、金利のみ1.5%で計算すると、実は結果が変わるのです。
▼金利1.5%で毎年6月に+50万円ずつ期間短縮型の一部繰り上げ返済を行う
(10年間で500万円を繰り上げ返済)
- ・削減利息 約245.9万円
- ・短縮できた期間 9年9か月
- ・住宅ローン控除額の合計(上限)約233.1万円
- ・削減利息+住宅ローン控除額 約479万円
▼金利1.5%で10年経過後に500万円を繰り上げ返済を行う
- ・削減利息 約193.1万円
- ・短縮できた期間 6年3か月
- ・住宅ローン控除額の合計(上限)約262.1万円
- ・削減利息+住宅ローン控除額 約455.2万円
こちらの例では、住宅ローン控除が終わってからまとめて繰り上げ返済をすると、約24万円ほど損になってしまうのです。
理由は金利が高くなるほど、住宅ローン開始から間もない繰り上げ返済による利息削減効果が非常に大きくなるためです。
早くからコツコツ返済することで、10年後にまとめて返すよりもこの例では、50万円ほど利息を減らすことができます。
住宅ローン控除活用法の正解
納税額から逆算して、住宅ローン控除の上限に届かないようであれば、使い切れない部分は、繰り上げ返済をした方がお得。
まとまったお金の繰り上げ返済は、1%を切るような低金利のときは住宅ローン控除終了後に検討する方が良いでしょう。金利が1%を超えているときは、早めにコツコツ繰り上げ返済することで利息削減効果の方が大きくなります。